自然へのアクセスが限られているなか、人々はバーチャルなソリューションに目を向け始めています。写真:Wes Hicks, Unsplash
バーチャルな自然を通じて生の自然を保護
バーチャルで自然に触れることで、物理的に自然の中で時間を過ごすのと同様の身体的メリットを得られることが、数多くの研究で示されています。Wallergård氏が参加したレビュー調査によって、VRの自然が(特にがんや慢性痛に苦しんでいる患者の)身体的苦痛を紛らわし、ストレスや不安を和らげ、恐怖症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)等のメンタルヘルス問題の治療に役立ち、グループで実行すれば人間関係を強化する効果もあることが実証されました。さらに、自然自体にもメリットがあります。
高校生にサンゴの視点で海を体験させた研究の結果、VRの自然は環境および人間活動の環境に与える影響に対する意識を高め、自然保護の奨励につながることがわかりました。
その例のひとつとして、UPMが制作した、自然界の音と共にフィンランドの森林のバーチャルツアーをするupmforestlife.comを挙げることができます。撮影に約20日間、制作に18ヶ月の期間を要したこのウェブサイトは、複数レベルで双方向性を実現しています。訪問者は森林内の様々な歩道を歩き、自然の中に浸ることができます。また、周囲の様々なポイントをクリックしてテキストや動画を呼び出し、フィンランドの森林に生息している多様な生物種、(キノコ狩りやベリー狩りといった)森林の楽しみ方、生物多様性を守るため林業活動から保護された沼地等のエリアの解説を含む、UPMの林業への取り組みについて学ぶこともできます。持続可能な林業に関する啓発が主な目的ですが、プロジェクトはそれだけにとどまりません。
「これまで森林を訪れる機会がなかったであろう上海等の巨大都市の住民、あるいは身体的に制限のある人々を想定しました」と、UPM Forestの環境担当上級スペシャリストであるMatti Maajärvi氏は述べています。「事実を集積するだけでなく、体験を提供する場にしたかったのです」。
バーチャルで自然に触れることで、実際にそこにいるのと同様のメンタルヘルスの効果を得られます。写真:Jacek Dylag, Unsplash
期待以上の効果
このエクスペリエンスは高い効果を発揮し、Maajärvi氏は、ブラジル、カナダ、フィンランドの学校から、ウェブサイトを自校の教育プログラムに利用する許可を求める問い合わせを受けました。
UPMは最近、カーボンツリーデモ
をこのウェブサイトに追加しました。これは、1本の樹木が80年間のライフサイクルで吸収する炭素量を示し、日々の排出量と比較するバーチャルデモンストレーションです。
VRを批判する人々の最大の懸念事項は、VRの自然が利用者に実際の自然を忘れさせ、シミュレーションのほうを好むようになるのではないかということです。しかしそれは心配無用です。VRはむしろ自然に直に触れる欲求を高める効果があることが、様々な研究によって実証されています。
Wallergård氏はこれを自身で体験しています。同氏が研究対象としたルンドの養護施設に入所しているある高齢男性は、ルンド中心部のバーチャルサイクリングを見たことがきっかけで、それらの場所を実際に訪れたいと思うようになりました。「非社交的で鬱状態で、まるで囚人のようでしたが、性格に変化が見られるようになりました」とWallergård氏は述べています。「まるで、彼の中で何かが覚醒したかのようでした」。
テキスト:Alex Belopolsky
メイン写真:Dan Gold, Unsplash