新しいテクノロジーの導入により、すでに汎用性の高い建材としての木材の用途がさらなる広がりを見せています。世界中で木造建築の数が増えていることをうけ、建築業界が真に持続可能な建物の建築に木材やその他の木材製品に期待している理由を調べてみました。
フィンランドのヨエンスー市にある大学では、今秋の新学期の始まりとともに、夏休み明けの学生たちが新築の学生寮に入寮しました。この新しい学生寮は、Lighthouseと呼ばれる14階建ての建物で、フィンランド国内で最も高く、世界で4番目に高い木造建築の高層ビルです。
ノルウェーのMjøstårnetやカナダのBrock Commonsのような木造建築とは異なり、このLighthouseは木材のみからなる構造で支えられているという特色があります。
「木材だけを使用して建築するためには、建築許可を得るための対策に工夫をこらすことはもちろん、冷静さと想像力を持ち合わせることが必要です」と、Lighthouseプロジェクトを請け負った建設会社ArcadiaのCEO、Samuli Sallinen氏は語っています。
持続可能な建築物の将来
実際には、生産に必要な化石燃料は少なく、二酸化炭素の排出量も効果的に抑制できます。木造建築は、正しく建てられていれば、木材の構造計画、輸送、建築のプロセス全体における大気中への炭素排出量を超える炭素貯蔵効果があります。
建物が貯蔵できる二酸化炭素の量は、エンボディドカーボンと呼ばれ、Sallinen氏によれば、今後は現在の建築基準で定義されている断熱や通気と同様の方法で定義されることが考えられます。このことをうけて、今後は木材を使用した建物が増えると思われます。
それとは対照的に、コンクリートやスチールの生産には大量の水やエネルギーを必要とするため、それらの建材を使用する建物のカーボンフットプリントは大幅に増加する可能性があります。エール大学林学・環境学大学院によると、スチール、コンクリート、レンガの製造に伴う化石燃料の消費は、世界全体の消費量の約16%を占めています。
「現在と30年前の木造建築との違いは、持続可能な建物の建築に欠かせない新しい情報を得られるようになったことにあります」
と、ニューヨーク市のSpiritos Properties LLCの社長であり、高層ビル・都市居住協議会(CTBUH)木造高層建築作業部会のメンバーでもあるJeff Spiritos氏は語っています。
さらに、責任ある原材料調達で入手した木材を使用することで、カーボンフットプリントの収支をマイナスにすることさえできます。
強度、軽量、耐久性
木材が建築業界でにわかに重要な資源になりつつある理由は、環境性能だけではありません。
クロスラミネート木材(CLT)などのエンジニアードウッドは、強度があり、耐久性も従来の建物で使用されている資材と同じです。また、耐火性があり、軽量であることから、建物の総重量を大幅に減らすこともできます。
軽量なため、地震が発生しやすい地域での建築に最適です。また、木造建築は、レンガやコンクリートに比べると、比較的簡単に解体や再利用できるため、長期的な都市計画にも適しています。
もちろん、スチールやコンクリートとは異なり、木材は建築中に水から保護する必要があります。たとえば、Lighthouseプロジェクトの建設プロセスでは、建物の上部に臨時の屋根を設置し、建物が高くなるのにあわせて上に動かすという、シンプルで費用対効果の高いソリューションが採用されました。
「乾燥状態で作業するという必要性は、さほど大きな問題とは考えませんでした。資材にはすべて、コンクリートの重量や乾燥時間など、考えなくてはならない特性があることを考えれば、木材も大きな違いはないと思ったからです」と、Sallinen氏は語っています。
建物の高さ制限
では、木造建築を建設する場合に考えられるその他の課題とは何でしょうか。それは意外かもしれませんが、空間の問題です。ロンドンで最も高い建物、The Shardにはわずかに及ばないものの、それに匹敵すると言われるOakwood Timberタワーのような高層建築の設計図を見ればわかるのですが、実際の建設現場では空間が重視され、木造建築の場合はより広い敷地が必要になります。
「建築基準の規則に照らし合わせて、実現可能なことをうまく進めるということ自体が課題です」と、Sallinen氏は説明し、次のように続けました。「Lighthouseプロジェクトが承認される以前は、木造建築で許可される階数は、地方自治体により8階までに制限されていました」
このような感情は、規制当局や保険会社が木造建築の進歩に遅れをとっているという世界的な状況に反映されています。このような建物を構造的に可能にするために新しい建築技術が進歩する一方で、このような規制との隔たりが生じ、さらに高い建物を建設することは管理上難しくなります。
「これらの最先端プロジェクトに意欲的に取り組むためには、社会的、環境的に責任があり、大胆さを兼ね備えたデベロッパーが、積極的に時間を使って木造建築について学ぶことが必要になります」と、Spiritos氏は補足します。
UPM Timberの顧客である住友林業は、現在、東京で世界で最も高い木造の高層ビルを建設することを計画しています。 70階建てのハイブリッド木材超高層ビルは、350メートルで日本で最も高いビルにもなります。
常に再生可能な資源
さらに、低炭素の認証を得るには、十分に配慮したうえで、木材や木材製品を責任を持って調達する必要があると専門家は指摘します。それを怠れば、世界中で横行している無計画な伐採の問題を悪化させることになりかねません。
Spiritos氏によると、木材プロジェクトに関係するサプライチェーンのうち、最も成熟度が高く、需要の急増に備えている業界は林業です。「この業界には、責任を持って調達された認定済みの木材製品を供給するという素晴らしい長期的思考を持つ企業が数多く存在します」
持続的に管理され、認証された森林から木材を調達することで、原材料は常に再生可能な資源として保証され、現世代と次世代に利益をもたらすことになります。
従来の建築工法に挑んで、再生可能な代替品を提供するという意志の力は、木造建築の開発や木材使用を促進するための強力な原動力になるでしょう。今後数十年のうちに、建築業界が「木材の時代」に入ることは目に見えています。
著者:Kati Leuschel