森林は環境を保護し、豊富な資源を提供します。しかし、適切な管理が必須です。それには、持続可能な林業を標準とする北欧諸国からヒントを得ることができます。
フィンランドと言えば、おそらく森林を思い浮かべるでしょう。この国の森林面積はヨーロッパ最大で、一人当たりの森林面積はヨーロッパ平均のおよそ16倍にも及びます。森林面積は2,300万ヘクタールと、全国土の約75 %を占めます。この規模を考慮すれば、森林がフィンランドで最も貴重な天然資源であることもうなずけます。林業(木材、合板、製紙、パルプ生産を含む)は、フィンランド輸出額の20 %以上を占め、直接および間接的に約16万人の雇用を生み出しています。
森林はフィンランド経済に多大な貢献をしているだけでなく、数万種の生息地を提供し、炭素を隔離しています。さらに、森林は国民の幸福にも貢献しています。2019年の国連報告書では、フィンランドが2年連続で世界で最も幸福な国に選ばれました。幸福の要因として、手つかずの広大な自然が挙げられています。
フィンランドの国民が森林から今後何世代にもわたって豊かな恩恵を受けるには、賢明で持続可能な森林管理が不可欠です。
北欧モデル
持続可能な森林管理の核心は、一年の伐採数よりも多くの樹木を生育するモデルです。このモデルにより、森林が破壊されず、継続的に再生され、林産物を保護することができます。しかし、森林の恩恵は、木材の生産にとどまりません。責任ある森林管理には、植林よりも伐採の本数を抑えることが必要です。
土づくり、植林、入念な間伐、伐採まで、サイクルの各段階を適切に管理しなければなりません。短期的な収益よりも、長期的な森林寿命を優先します。
当然ながら、森林資源から多大な恩恵を受けている北欧諸国では、持続可能な森林管理において真っ先に取り組みを開始しました。1970年代には、北欧諸国全体を対象に、森林生態系の科学的な調査が実施されましたが、林業業界も調査資金の一部を負担しました。調査結果は、商業戦略に取り込まれました。1987年、スウェーデン最大の製材会社SCA社は、自社の森林事業について『Declaration on Nature Conservation』(自然保護宣言)を発表しました。この宣言には、土壌や水に対して回復不能な被害をもたらさない、植物と動物を保護する、生物多様性を維持するなどの取り組みが盛り込まれています。他の北欧企業も、SCA社に倣って次々と宣言を発表しました。
資源の尊重
では、管理プロセスは実際にどのような仕組みなのでしょうか?一例として、UPMの森林事業を見てみましょう。木材のほとんどは、北欧の寒帯林から調達されますが、一部は放牧地だった場所に植林した人工林から調達されています。フィンランドのUPMが調達する木材の約10 %は、ロシアやバルト海諸国から輸入されます。さらに、UPMはフィンランド国内で150万ヘクタールの森林を維持管理しており、そのうち約2/3は個人が所有する小規模な森林です。
資源の責任ある管理は手間のかかるプロセスです。土づくりの後、UPMはその土地固有の苗木を植えています。30~60年後(北欧の森林のライフサイクルは80~100年)、「間伐」を2度実施し、十分な生育スペースを維持できるよう、1本おきに間引きます。更新伐採後、土づくりからプロセスを再開します。ただし、UPMは継続的にプロセスを評価して、改善すべき点がないか確認しています。
2014年にフィンランド森林法が施行されると、非皆伐造林が認められますが、この好機を捉えた森林所有者はほとんどいません。過去5年間、UPMは新しい森林管理のスタイルをさらに詳しく学ぶために、新しい管理法を独自で開発し、自社所有の森林に導入してきました。
所有者の希望に沿って管理し、動植物すべての生態をモニターできるよう、森林の各区画からその期間中ずっとデータを収集する必要があります。
フィンランドでは森林の個人所有が大勢を占めるため(フィンランド自然資源研究所(Luke)によると、森林の60 %が個人所有)、森林の持続可能な管理が必要な理由とその方法、森林を健全に維持するために生物多様性を促進すべき理由について、UPMは時間をかけて、個人所有者を啓蒙する必要があります。個人所有者を納得させるには、環境的な利点を強調することが重要です。
Heli Viiri(UPM森林開発担当シニアマネージャー)は、以下のように指摘します。「森林の間伐、伐採、植林は、サラダを食べるよりも気候変動に効果があります。飛行機の利用をやめるよりも効果的です。造林作業を適切な方法とタイミングで実施すれば、二酸化炭素の吸収量が増加します。木材を長持ちする製品に利用すれば、二酸化炭素を数十年も貯留できます。」
考慮すべきは、北欧では森林と自然が生活の大切な一部と認識されているため、入念な森林管理は特に喫緊の課題である点です。フィンランド公共放送局Yleが実施したアンケートによると、フィンランド人の圧倒的多数が森林をとても大切にしており、76 %が生物多様性の損失を懸念していることがわかりました。
このアンケート結果について、Viiriは以下のように説明します。「フィンランド人にとって、森林は収入源であると同時に、レクリエーションの場、食料源、心の故郷でもあります。社会的な観点では、森林は多くの関係者に複数の利点をもたらしています。」つまり、木材などの林産品需要は、森林そのものから得られる利点とバランスを保つ必要があるということです。 Viiriは次のように指摘します。「長期的な約束を履行し、数十年にわたって持続可能な森林管理を確実に実施できるよう、以上の側面をすべて考慮しています。また、地元住民と対話し、ニーズと権利を尊重しています。最も重視しているのは、生物多様性の保護を計画や伐採作業に取り込んで、森林管理の影響により資源が枯渇しないよう図っています。」
世界的な枠組み
以上の取り組みは多大な努力を要しますが、良い結果をもたらします。2015年、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの3ヵ国は二酸化炭素換算で1億6,900万トンを排出しましたが、これとほぼ同等の二酸化炭素1億5,000万トンを森林で隔離しました。最近ニューヨークで開催された国連気候行動サミットで、フィンランド大統領のサウリ・ニーニスト(Sauli Niinistö)は、同国が2035年までにカーボンニュートラルを達成し、その後間もなく「二酸化炭素収支マイナス(吸収量が排出量を上回る)」となると指摘しました。フィンランドの森林と森林管理法は、その達成に極めて重要な役割を果たします。
世界各地で森林が適切に管理されれば、林業以外の活動による自然破壊を緩和できるはずです。実際に、森林保護と森林再生は、国連に向けて準備した「自然に基づく解決策(nature-based solutions)」マニフェストにも取り上げられています。しかし、現在のところ林業に関する国際的協定はほとんどなく、EUにも共通の森林政策はありませんが、政策策定に向けて進んでいます。北欧の森林モデルは、森林政策への道標となるはずです。
文:Rachel Proby